実務が変わる!労務管理システムの選び方・おすすめ5選完全ガイド
更新日 2025年07月01日
人事・労務担当者の業務は、採用から退職手続き、勤怠管理、給与計算、社会保険手続きまで、実に幅広いものです。日々膨大なタスクをこなすなかで、法改正や働き方の多様化にどう対応すべきか、悩みは尽きません。
2019年の働き方改革関連法や、近年の育児・介護休業法の改正、リモートワークの普及など、職場環境の変化は加速しています。加えて、押印廃止や電子申請の流れもあり、人事・労務業務にもデジタル化(DX)が欠かせない時代となりました。
出典:厚生労働省 働き方改革特設サイト
本記事では、そんな“変化の波”に向き合う現場担当者に向けて、労務管理システムの選び方と導入のコツを、最新の事例や法 令情報を踏まえつつ、現場目線で丁寧に解説します。
「現場で本当に使えるシステム選び」とはどんなものか、続きをぜひご覧ください。
労務管理システムとは、勤怠・給与・社会保険といった煩雑な労務手続きを、ひとつのプラットフォームで一元管理できるサービスです。
たとえば入社・退社時の書類や、従業員情報の管理、年末調整、電子契約、福利厚生の管理など、さまざまな業務が“ボタンひとつ”でスムーズに進むようになります。
紙やエクセルでは管理しきれなかった細かい業務も、システムを導入すればミスや手戻りがぐっと減り、法改正対応やペーパーレス化にも柔軟に対応できます。
従業員自身がPCやスマホから情報を入力したり、役所への届出をオンラインで完結できるのも 現代ならではのメリットです。
特に近年は行政手続きの電子化が推進されており、2020年4月からは一部の社会保険・労働保険手続きについて大企業に電子申請が義務化されました。こうした流れから、社会保険や雇用保険の電子申請に対応した労務管理システムのニーズが高まっています。従来は紙で行っていた様々な手続きをオンラインで完結できることが、労務管理システムの大きな特長と言えるでしょう。
効率化やコンプライアンス強化だけでなく、担当者の“心の余裕”も生まれやすくなる——それが労務管理システム導入の一番の価値かもしれません。
次のセクションでは、こうしたシステムが「どんな現場課題をどう解決できるのか」を、よりリアルに掘り下げていきます。
以上のように、労務管理システムは労務手続き全般をカバーしうる総合的なプラットフォームです。
どの職場でも、「紙の書類がなかなか集まらない」「複雑な勤怠ルールに人手が追いつかない」「テレワークや多様な働き方に管理が追いつかない」といった“あるある”の悩みは尽きません。
たとえば、紙の申請書やタイムカードの回収漏れ、Excel管理の転記ミス、役所への提出忘れ……。
どれも日々の小さな“つまずき”が、じわじわと現場担当者の負担を増やしていきます。
こうした現場目線の悩みにこそ、労務管理システムの自動化・一元化は大きな効果を発揮します。紙・Excelでの作業や属人的なノウハウを減らし、誰がやっても正確で漏れのない運用へとシフトできるのです。
次は、クラウド型とオンプレミス型、それぞれの特徴や“合う企業像”を詳しく見ていきます。どちらが自社にフィットするか、イメージを広げてみてください。
労務管理システム選びでまず迷いやすいのが「クラウド型」か「オンプレミス型」かという提供形態です。
最近はクラウド型が主流ですが、社内にITリソースがある企業や高度なカスタマイズが必要な場合、オンプレミス型にも根強い需要があります。それぞれの特徴を、下表で整理します。
比較ポイント | クラウド型 | オンプレミス型 |
---|
導入コスト | 初期費用が低く、月額・年額利用料制 | 初期投資が大きい(サーバー・ライセンス購入等) |
導入スピード | 申し込みから短期間で利用開始が可能 | サーバー準備や設計に時間がかかる |
カスタマイズ性 | 基本的に標準機能が中心でカスタマイズは限定的 | 自社要件に合わせた細かなカスタマイズが可能 |
運用・保守 | ベンダー側がシステム保守・法改正対応を自動で実施 | 社内での運用・保守が必要、アップデートも自社対応 |
法改正対応 | ベンダーが自動でアップデート | ベンダーの提供するパッチや自社作業で対応 |
セキュリティ | データは外部クラウドサーバーに保存。高度なセキュリティ対策が施されているが、社内規定によっては利用 制限の場合も | 社内ネットワーク内で管理でき、情報の持ち出しリスクは小さい |
利用場所 | インターネット環境があればどこからでも利用可能 | 原則として社内ネットワークからの利用が中心 |
災害・BCP | クラウドサーバーの冗長化・バックアップが標準対応 | 自社でバックアップ・災害対策を講じる必要あり |
対象企業規模 | 中小~中堅企業に特に適している | 大企業や独自要件が多い企業に向く |
クラウド型は「手軽さ」「自動アップデート」「テレワークとの親和性」が魅力ですが、独自運用や厳格な社内セキュリティ基準が求められる場合はオンプレミス型のほうが安心なこともあります。
「どちらが正解」というより、“自社の運用スタイルやIT体制”に合う形態を選ぶことが、システム活用の満足度につながります。
次は、具体的な比較ポイントや選び方の視点を深堀りしていきます。
労務管理システム比較のポイント ~本当に“現場に合う”かを見極める~
ここまで導入形態の違いを見てきましたが、システム導入の成否を分けるのは、実は「何をどう比べるか」にかかっています。カタログや公式サイトを見比べてもピンとこない…。
そんなときは、自社の現場業務を思い浮かべて、下記のような観点で“現実的な使い勝手”まで掘り下げてみてください。
比較観点 | チェックポイント例 |
---|
機能範囲 | 勤怠・給与・社会保険・年末調整・マイナンバーなど、どこまでカバーしているか |
自社独自ルール対応 | イレギュラーな勤務形態、部門ごとの例外ルール、手当の計算式等に柔軟対応できるか |
他システムとの連携 | 給与計算ソフトや会計ソフト、勤怠システムと自動連携できるか。CSV取込・出力の柔軟性 |
料金体系・費用感 | 初期費用、月額費用、従量課金など、自社の規模・予算に合っているか |
サポート体制 | 設定・操作トラブル時にどこまでフォローしてもらえるか、問い合わせのレスポンス速度 |
法改正・アップデート | 法改正や最新制度にどのように追従するか、自動アップデートの有無 |
UI・操作性 | ITに不慣れな現場でも直感的に使えるか、モバイル対応や現場からの入力のしやすさ |
労務管理システムと一口に言っても、製品ごとに得意分野や搭載機能には違いがあります。例えば勤怠管理や給与計算をメインにしたものもあれば、社会保険・雇用保険手続きに特化したもの、マイナンバー管理に強いもの等、様々です。
そのためまず、「自社の労務業務の中でどの業務をシステム化したいか」を明確にし、対象業務に必要な機能を網羅している製品を選ぶ必要があります。「求めていた機能がないシステムを選んでしまった」という失敗は避けなければなりません。
特に初めて導入する場合は、自社に必要な機能が一通り最初から組み込まれているシステムを選ぶと安心です。例えば、入退社手続き・年末調整・勤怠管理など一連の業務を一元管理したいなら、それらがオールインワンで提供されているサービスを検討しましょう。
また、行政への電子申請対応は必ず確認したいポイントです。せっかくシステムに入力した情報も、その先の役所提出が電子でできなければ結局書類を印刷して持参・郵送することになり、効率化効果が半減します。
現在、主要な労務管理システムは社会保険や雇用保険の電子申請に対応していますが、製品によって対応範囲(対応している手続きや提出書類)が異なるため注意が必要です。例えば雇用保険や社会保険は対応していても、労災保険や各種補助金申請には非対応といったケースもありえます。
「自社がよく行う手続きが漏れなく電子化できるか」を事前に確認し、自社の目的に合ったシステムを選びましょう。
労務管理システム単体でできることに加え、既存の他システムと連携できるかも見逃せないポイントです。典型的には「勤怠管理システム」「給与計算システム」「人事情報システム」とのデータ連携が挙げられます。労務管理システムで集約したデータをワンクリックで給与システムに渡せたり、逆に人事マスタと同期できたりすれば、システム間のデータ重複入力を避けられ業務効率が格段に向上します。
仮に連携が難しい場合でも、最低限CSVデータのインポート/エクスポート機能があれば手動でデータ連携が可能です。しかしその際も他システムが要求するフォーマットに合わせて出力可能かなど細部の仕様まで確認する必要があります。連携がうまくいかないと結局データを出力→加工→入力といった作業が発生し、効率化の妨げになります。「勤怠と給与が連動できず、別途エクセルで手当計算をしている」といった事態は避けたいところです。
なので、検討段階で、「自社で使っている(もしくは将来的に導入予定の)○○システムと連携できますか?」とベンダーに具体的に問い合わせて確認することが大切です。
労務管理システムは、個人情報や給与など機密データを扱うため、サポート体制やセキュリティ、アップデート対応も重要な比較ポイントです。
サポートについては、設定や運用でつまずいたときにどれだけ手厚く・早く対応してもらえるかが現場の安心感につながります。メールや電話だけでなく、チャットやマニュアル動画の有無も確認しましょう。セキュリティ面では、データの暗号化やアクセス権限、二要素認証などが整っているかが必須です。法改正や制度変更への自動アップデートがあるかどうかも、コンプライアンス上は見逃せません。
この3つは「導入後に困らないための保険」とも言えます。システム比較時には、単なるスペックだけでなく、運用の安心感までしっかりチェックしておきたいところです。
システムは実際に使われないと意味があり ません。高度な機能が揃っていても、現場のユーザーが使いこなせなければ宝の持ち腐れになってしまいます。そこで操作性や使いやすさも比較ポイントとなります。
特に現場従業員が利用するワークフロー画面や打刻アプリの使い勝手、管理者側の設定画面の分かりやすさなどをチェックしましょう。「IT機器に不慣れな従業員にとって負担にならないか?」という観点は重要です。例えば年配の管理職が承認者となる場合、紙の書類管理に慣れていてシステム上の操作に抵抗感を示すケースも実際によくあります。
たとえば「今使っている給与計算ソフトとデータ連携できるか」「シフトパターンや手当の計算式を細かく設定できるか」など、日々の“ちょっとした面倒”が解消できるかを想像してみてください。
また、公式サイトだけでは分からない操作感や、現場での実用性は必ず無料トライアルやデモで“本物の現場業務”を再現してみることが重要です。実際に現場スタッフにも操作を体験してもらい、「どこでつまずくか」「どんな点が分かりづらいか」を早めに洗い出すことで、後々の“こんなはずじゃなかった”を防ぐことができます。
続くセクションでは、「ありがちな導入失敗」と、その回避のための現場ノウハウを解説していきます。
労務管理システムおすすめサービス比較【2025年版】
労務管理システム選びでは、単なる機能や価格の比較だけでなく、「現場で本当に使いやすいか」「イレギュラーな労務業務に対応できるか」といった実務視点が欠かせません。ここでは代表的なクラウド型サービスの特徴やユーザー体験を、担当者の導入現場目線で解説します。
SmartHR
株式会社SmartHR
出典:SmartHR https://smarthr.jp/
SmartHRは、クラウド型の労務管理システムの中でも特にペーパーレス化の推進力が高いサービスです。入退社手続きや年末調整、雇用契約書の電子化など、従業員情報の登録から各種手続きまでを一元管理できる点が大きな魅力となっています。実際の現場では、書類の回収ミスや押印・郵送にかかるタイムロスがほぼ解消されると感じる担当者が多いようです。UIの設計が直感的なため、ITが得意でない担当者や従業員でも迷わず操作できる安心感があります。
また、従業員情報の履歴管理やタレントマネジメントといった発展的な機能もあり、単なる手続きツールを超えた「人事プラットフォーム」としての側面も強くなっています。
主な機能
- 提出依頼の通知
- 簡易検索
- 導入支援・運用支援あり
- 導入支援・運用支援あり
ジョブカン労務HR
株式会社DONUTS
出典:ジョブカン労務HR https://lms.jobcan.ne.jp/
ジョブカン労務HRは、初期費用が不要で、すぐに導入・運用が始められる点が中小企業や現場主導のプロジェクトで特に支持されています。スマートフォンから従業員自身が直接情報入力できる仕組みや、マイナンバー管理などセキュリティ面にも配慮した設計が特徴です。
また、ジョブカンシリーズの他システム(勤怠・給与)と連携することで、入退社の連絡や情報の重複入力が不要となり、現場の煩雑な作業を実感として減らすことができます。ベーシックな機能に絞りつつも、実務で「この操作がしたかった」という場面をカバーしやすい柔軟性も、現場担当者に好評です。
主な機能
- 提出依頼の通知
- 電話サポートあり
- 導入支援・運用支援あり
- 情報を直接入力
freee人事労務
freee株式会社
出典:freee人事労務 https://www.freee.co.jp/hr/
トライアルあり
IT導入補助金対象
上場企業導入実績あり
freee人事労務は、会計freeeなどと連携して一気通貫の業務効率化を目指す企業で広く利用されています。給与計算や勤怠データの自動集計、社会保険料の自動計算など、毎月のルーチン業務が大幅に効率化されるのが大きな特長です。画面設計がシンプルで、労務の経験が浅い方でも比較的すぐに操作に慣れることができます。アラート機能で業務の“うっかり”漏れを防げる点も実務担当者からの評価が高いポイントです。
クラウドサービスらしく、アップデートや法改正対応も自動で行われるので、「いつの間にか制度に遅れてしまう」リスクも小さくなります。
主な機能
- 導入支援・運用支援あり
- 残業手当の自動計算機能
- 明細配信・照会
- 提出依頼の通知
オフィスステーション 労務
株式会社エフアンドエム
出典:オフィスステーション 労務 https://www.officestation.jp/roumu/
トライアルあり
IT導入補助金対象
上場企業導入実績あり
オフィスステーション労務は、100種類を超える豊富な帳票に対応し、e-Gov連携機能も備えているなど、行政手続きを“とにかく幅広く・しっかり電子化したい”企業に特に選ばれています。実際に、離職証明や社会保険の各種申請が手作業の数分の一の時間で済むようになったという声もよく聞かれます。
また、必要な機能だけを選んで段階的に導入できるため、「いきなり全部変えるのは不安」という現場にも導入ハードルが低くなっています。現場からは「紙やExcel時代の煩わしさから一歩ずつ抜け出せる」「業務の段階的なDXが現実的に進められる」といった実感が寄せられています。
主な機能
- 導入支援・運用支援あり
- 電話サポートあり
- 明細配信・照会
- メールサポートあり
KING OF TIME 人事労務
株式会社ヒューマンテクノロジーズ
出典:KING OF TIME 人事労務 https://www.kingoftime.jp/hr/main-lp/
KING OF TIME人事労務は、もともと勤怠管理で評価の高いKING OF TIMEシリーズの一環で、勤怠データと労務情報を連携しやすい点が現場で支持されています。ICカードや顔認証、スマートフォンなど多彩な打刻方法に対応 し、リアルタイムな労働時間把握や不正防止にも強みがあります。
また、マイナンバーの暗号化やアクセス履歴の記録といったセキュリティ対策も充実しており、現場担当者が「情報管理で不安を感じにくい」設計がなされています。人事・労務データの一元管理で“転記や二重入力の手間”を実感として減らしたい企業には特におすすめです。
主な機能
- 導入支援・運用支援あり
- 明細配信・照会
- 電話サポートあり
- メールサポートあり
このように、それぞれのサービスには実務に直結した個性と強みがあります。現場がどこで苦労しているか、どんな業務を重点的に電子化したいかを具体的にイメージしながら、自社にフィットする一社を検討することが大切です。
サービスごとの無料トライアルやデモを利用して、実際の使い勝手を現場で確かめてみることもおすすめします。
労務管理システムは正しく選定・運用すれば大きな効果がありますが、導入プロジェクトが失敗に終わってしまうケースも残念ながら存在します。ここではありがちな失敗例をいくつか挙げ、その原因と対策について解説します。同じ轍を踏まないよう、事前に教訓として押さえておきましょう。
失敗例1:自社の業務に合わないシステムを選んでしまった
「有名なシ ステムだから」「機能が多いから」という理由だけで選定した結果、自社の就業規則に対応できないケースです。各社で勤務形態や勤怠ルールは様々ですが、中には一般的ではない独自ルールを運用していることもあります。例えば「労働時間の端数処理を5分単位で行っている」「夜勤で日付をまたぐ勤務がある」「独自のリフレッシュ休暇制度がある」等です。選んだシステムがそれらに対応できず、結局一部手作業に逆戻り…というのはよく聞く話です。
ただし近年の勤怠管理システムはアップデートが進み、これら変則的な勤怠にも全く対応できないケースは少なくなっています。むしろ多いのは「システムには機能があったのに、設定方法が分からず活用できなかった」というケースです。担当者が自社ルールを正しく設定できず、結果として「必要な機能がない」と誤解してしまうパターンと言えます。
〈失敗の原因〉
原因は要件定義と初期設定の不足です。自社の就業規則や手当計算方法などを細かく洗い出さないまま導入を進めてしまい、「こんなケースは想定していなかった」という事態に陥ります。また設定画面でどの項目をどう設定すれば自社ルールを再現できるのか理解できず、なんとなく見よう見まねで設定してしまうミスも起こりがちです。ベンダーへの要望の伝達不足や、担当者の設定スキル不足も一因でしょう。
〈回避策〉
まず導入前の要件洗い出しを綿密に行うことです。「自社ではどんな勤務パターンがあるか」「承認経路はどうなっているか」「給与計算で特殊なルールはないか」など、現行業務を漏れなく棚卸ししましょう。その上で、検討中のシステムがそれらに対応できるかをベンダーに事前確認します。
必要であれば自社の具体的なケースを伝え、設定方法のデモを見せてもらうと安心です。また導入時にはベンダーのサポートを受けながら初期設定を丁寧に行うことが重要です。
もし設定に不安が残る場合は、段階的に機能を絞って運用を始めるのも一案です(例:まず勤怠と有給管理だけ運用し、慣れたら社保手続き機能も使うなど)。自社業務に合ったシステム選定と、正確な設定作業を徹底すれば、「欲しい機能がなかった/使えなかった」という失敗は防げるはずです。
失敗例2:従業員が使いこなせず、現場に定着しなかった
システム自体は問題なく稼働したものの、利用者である従業員や上長がうまく使えず、結局旧来の紙運用に逆 戻りしてしまうケースです。例えば残業申請や有休申請を電子化したのに、承認者である現場管理職が「紙で持って来てくれないと確認しづらい」と言って従来通り紙の申請書でしか処理してくれない、といった話が実際によくあります。特に長年紙文化に慣れ親しんだ年配の管理者ほどシステムへの抵抗感が強く、「ハンコ文化」が抜けないこともあります。結果として、部門長がシステム承認してくれないので部下もシステム入力をやめてしまい、せっかく導入したシステムが形骸化してしまうのです。
別のパターンでは、現場社員がPC操作に不慣れで入力期限までに対応できず、かえって担当者の回収業務が滞ってしまったという例もあります。従業員一人ひとりのITリテラシーに差がある場合、操作説明やマニュアル整備に時間を割けず導入が進まない…という失敗談も聞かれます。
〈失敗の原因〉
原因は社内への周知徹底と教育不足です。システム導入を担当者だけのプロジェクトにしてしまい、現場への説明や協力依頼が不十分なまま開始してしまうケースが多いようです。人は誰でも慣れたやり方を急に変えることに抵抗を感じるものです。特に忙しい現場ほど「新しい操作を覚える余裕がない」「今まで通りで十分」と捉えがちで、トップダウンで無理に変えようとすると反発も招きます。結果、正式運用日を過ぎても旧来方法との並行稼働 が長引き、担当者が二重対応に疲弊してしまうのです。
〈回避策〉
重要なのは初期段階で現場を巻き込むことです。導入決定前後に説明会やヒアリングを実施し、「なぜシステム導入が必要なのか」「これを使うと自分たちにどんなメリットがあるのか」を丁寧に共有しましょう。現場管理職には協力者(旗振り役)になってもらうべく、場合によっては経営層から直接働きかけてもらうのも有効です。「あなたの協力なしには成功しません」と早期から参加意識を持ってもらいましょう。また、操作方法の研修やマニュアル整備にも時間を割くべきです。最初にしっかり教育することで、後々の問い合わせ対応の手間も減ります。
ポイントは一度教えて終わりにしないことです。定期的にフォローアップ研修を行ったり、FAQを社内ポータルに公開したりして、現場にシステムが浸透するまで粘り強く支援しましょう。さらにユーザーインターフェースができるだけ簡潔で直感的なシステムを選ぶことも大事です。複雑すぎるシステムは教育コストも増えます。可能であれば段階導入(まず基本機能だけ使い、徐々に活用範囲を広げる)で現場の混乱を抑えるのも一手です。現場と二人三脚で進める姿勢が、定着化の成功につながります。
労務関連の法律改正にシステム対応が間に合わず、古い様式や誤った計算式で処理を行ってしまったケースです。例えば年次有給休暇の繰越ルールが法改正で変わったのにシステム設定を更新しておらず、誤った有給日数を表示して従業員に混乱を与えた、あるいは社会保険料率改定に気づかず旧料率で給与計算してしまい追加徴収が発生した、等の事例が考えられます。またシステム自体は最新対応していたものの、自社がバージョンアップを適用するのを怠ったために不備が生じたケースもあります。
オンプレミス型でアップデートを実施しておらず旧バージョンのまま運用していたり、クラウド型でも新機能の設定をオンにしなかったため活用できなかったりといった具合です。結果として法令違反には至らなくても、従業員への説明や行政手続きのやり直しに追われ、担当者が苦労する羽目になります。
〈失敗の原因〉
原因は法改正対応への意識不足とベンダー任せの油断です。法律改正は頻繁に起こるものではありませんが、例えば毎年の社会保険料率見直しや数年おきの制度改正など、定期的に発生します。システムに頼るあまり「自動で対応してくれるだろう」と安心しきってしまい、自社でのチェックやテストを怠ったことが失敗につながります。あるいは導入時に法改正対応サービスの範囲をきちんと確認しておらず、追加オプション契約が必要なことに気づかなかったケースも考えられます。
〈回避策〉
まず、システムに依存しすぎず自社でもアンテナを張ることです。人事労務関連の法改正情報は定期的に厚生労働省や関連機関から発信されるので、担当者自身もキャッチアップを心がけましょう。「忘れた頃に発生する」法改正対応作業ですが、日頃から情報収集していれば心構えができます。
さらに契約段階で、「どこまで法改正対応してくれるのか」を明確にしておくことも重要です。例えば「社会保険料率や税制改正は標準対応だが、自社独自の計算式は対象外」などがあり得ます。契約書やサービス説明を確認し、不明点は事前に質問しましょう。
最後に、万一改正対応に漏れがあっても柔軟にリカバリーできる体制を整えておくことです。システムと併用しているエクセル計算シートを残しておく、ベンダーの緊急サポート窓口を把握しておく、といった準備があるといざという時に役立ちます。法改正対応はコンプライアンスに直結する重要事項なので、「システム任せでも100%安心」という油断を排し、自社とベンダーの二重チェック体制で臨むくらいが丁度よいでしょう。
労務管理システム導入を現場で成功させるための実践的ポイント
「給与明細」「年末調整」「社会保険」── どこから電子化を始めるべきか
まず考えたいのは、「何を」「いつまでに」システム化するか。労務管理の中でも、たとえば給与明細の電子化は比較的スムーズに始めやすく、成功事例も多い分野です。次に社会保険手続きや年末調整といった、手続きの煩雑さや書類回収の手間が大きい部分に広げていくと、現場も徐々に電子化のメリットを実感しやすくなります。
すべてを一度に切り替えるのは現実的ではないので、「まずは一部から着手→現場の声を反映しながら段階的に広げる」という小さな一歩が、実は成功の近道です。現場の負担や従業員への影響も考慮し、必要なら紙の方法も一時併用しながら進めるのも無理がありません。
現場で頻発する“書類回収ミス”や“二重入力”を見逃さない
「現場のどこが本当に困っているのか?」を、できるだけ具体的にリストアップしましょう。
例えば――
- 申請書類の承認が遅れてしまい、毎月給与計算直前までバタバタしている
- 年末調整や社会保険手続きのたびに「どの書類が誰に提出されたのか」管理が煩雑
- 同じ従業員情報を何度もエクセルに転記し直す二重入力が常態化
- 誰かが異動・退職するたびに管理ファイルが分からなくなる
といった“現場あるある”を明らかにすることで、システム導入の狙いや優先順位がクリアになります。
「毎月この作業に〇時間かかっている」「このミスが年に何件ある」といった数字も押さえておくと、導入後の効果測定や社内説明でも説得力が出ます。
複雑な勤務区分や手当、独自フロー── 自社ルールを正確に再現できるか?
数ある労務管理システムの中でも、
- 自社の就業規則や例外的な勤怠ルールにどこまで柔軟対応できるか
- 行政手続き(社会保険・雇用保険など)の電子申請が、実際に自社が多用する手続きまでカバーされているか
- 今使っている給与計算ソフトや会計システムとのデータ連携がスムーズか(CSVでやり取りする場合はフォーマットも要確認)
- 操作画面が分かりやすく、現場スタッフや管理職でも戸惑わず使えるか
といった、細かな“現場目線”での比較が欠かせません。有名なサービスや大きな機能一覧だけで決めるのではなく、実際の設定画面やサポート体制、カスタマイズの余地もチェックしましょう。
無料トライアルやベンダーデモを活用し、自社業務をできるだけリアルに再現してもらうのが理想です。現場スタッフにも一緒に使ってもらい「ここが使いづらい」「このルールはどう設定するのか」など本音のフィードバックを集めることで、後悔しない選定につながります。
労務担当者・従業員ともに“現場で迷わない”運用設計とサポート体制
システム導入がゴールではありません。「どの業務でどれだけ工数が減ったか」「紙・郵送コストがどれだけ減ったか」「担当者や従業員の満足度は上がったか」といった成果を数字やアンケートで把握し、効果を“見える化”しましょう。
効果が思うように出ない場合は、設定ミスや現場ルールとのズレ、教育不足など原因を洗い出し、都度運用ルールやマニュアルを見直すことが重要です。現場からの声を定期的にヒアリングし、必要に応じて追加研修や機能のカスタマイズも検討していきましょう。
こうしたPDCAを回し続けることで、システム導入のメリットを最大限に引き出せます。
紙とシステムの“併用・移行期間”に起こるトラブルと、その乗り越え方
どんなに良いシステムでも、現場が「よく分からない」「使いづらい」と感じてしまえば活用は進みません。操作方法や変更点は必ずわかりやすく説明し、研修やマニュアル動画、Q&Aの整備などで不安や疑問にすぐ対応できる体制を作りましょう。
導入直後だけでなく、「1か月後、3か月後」といった定期的なフォローアップやアンケートを実施し、「困っていることはないか」「旧来の運用と比べてどうか」などの声をしっかり拾 うことが大切です。成功事例を社内で共有したり、「以前より○時間短縮できた」といった効果を現場に実感してもらう取り組みも、定着化に役立ちます。
実務で必須の「法対応」と「保存ルール」の見落としに注意
- 電子化した労働条件通知書・社会保険手続きの法的要件チェック
労務管理の電子化には電子帳簿保存法、労働基準法、e-文書法など複数の法律が関わります。たとえば労働条件通知書の電子交付には従業員の同意が必要です。導入前にシステムが法的要件を満たしているか、ベンダーのガイドラインもよく確認しましょう。
- 雇用契約書・帳簿の電子保存と原本保管、現場の運用バランス
「この書類は電子保存できるか?紙保存が必要か?」を、社内でしっかり分類し、それぞれの法定保存期間も漏れなく押さえておくことが大切です。
- システム初期設定時の権限管理ミスによる情報漏えい防止策
労務管理は個人情報や機密データの宝庫。誰がどの情報にアクセスできるか、権限設定は必ず慎重に。初期設定や運用の見直し時には、専門スタッフやベンダーのサポートも活用し、漏れやトラブルを防ぎましょう。
システム導入は、業務の効率化と法令対応、そして現場スタッフの“納得感”の三つ巴があってこそ、はじめて成果が出ます。労務担当ならではの悩みや現場感覚に寄り添いながら、着実に一歩ずつ進めていきましょう。
労務管理システムの概要から比較ポイント、導入プロセスまで包括的に解説してきました。繰り返しになりますが、便利な労務管理システムが次々と開発されている一方で、システムを入れさえすれば現場の課題が魔法のように消えるわけではありません。自社の業務のどこにネックがあるのか、どの機能が本当に必要なのかを明確にした上で、上手に活用できるシステムを選ぶことが大切になります。
本記事の内容が、読者の皆様のシステム選定と導入の一助となり、労務業務の効率化・高度化につながれば幸いです。長年培われてきた人事・労務の専門知識と最新テクノロジーを融合させ、より戦略的で生産性の高い人事労務運営を実現していきましょう。
運営に関するお問い合わせ、取材依頼などはお問い合わせページからお願いいたします。